![]() 『女生徒』 太宰治 作 佐内正史 写真 |
「走れメロス」や「人間失格」などで知られる作家、太宰治の中期の中篇小説「女生徒」と、中村一義やくるりのCDジャケットなども手掛ける写真家、佐内正史の写真とのコラボレーション作品。
まず太宰治の作品は、とある夏の1日を少女自身の独り語りという形式で書いた小説。思春期の少女の持つ様々な感情の揺れ、焦燥感、大人への思いなどが独特の語り口で綴られている。これが自分の思春期を思い出させて、さらに共感共感。60年前の作品とは思えないくらい共感できるところがいっぱいある。ほんとリアル。文章も、1文1文がとってもユーモア富んでいて、それでいて深い深い。何度も何度も読みたくなるホントに素敵な作品。ここに、この作品中で僕の好きな文章を数箇所引用しとく。 結局は、私はひまなもんだから、生活の苦労がないもんだから、毎日、幾百、幾千の見たり聞いたりの感受性の処理が出来なくなって、ポカンとしているうちに、そいつらが、お化けみたいな顔になってポカポカ浮いてくるのではないかしら。 「みんなを愛したい」と涙が出そうなくらい思いました。じっと空を見ていると、だんだん空が変わってゆくのです。だんだん青味がかってゆくのです。ただ、溜息ばかりで、裸になってしまいたくなりました。それから、いまほど木の葉や草が透明に、美しく見えたこともありません。そっと草に、さわってみました。 美しく生きたいと思います。 観念だけの生活で、無意味な、高慢きちの知ったかぶりなんて、軽蔑、軽蔑。やれ生活の目標が無いの、もっと生活に、人生に、積極的になればいいの、自分には矛盾があるのどうのって、しきりに考えたり悩んだりしているようだが、おまえのは、感傷だけさ。自分を可愛がって、慰めているだけなのさ。 私たちは、決して刹那主義ではないけれども、あんまり遠くの山を指して、あそこまで行けば見はらしがいい、と、それは、きっとその通りで、みじんも嘘のないことは、わかっているのだけれど、現在こんな烈しい腹痛を起こしているのに、その腹痛に対しては、見て見ぬふりをして、ただ、さあさあ、もう少しのがまんだ、あの山の頂上まで行けば、しめたものだ、とただ、そのことばかりを教えている。きっと、誰かが間違っている。わるいのは、あなただ。 幸福は一夜おくれて来る。ぼんやり、そんな言葉を思い出す。幸福を待って待って、とうとう堪え切れずに家を飛び出してしまって、そのあくる日に、素晴らしい幸福の知らせが、捨てた家を訪れたが、もうおそかった。幸福は一夜おくれて来る。 そして、この作品社から2000年に出版された本には佐内正史の写真が合間合間に挿入される。これが、文章から60年後に撮られた写真とは思えないくらい見事にマッチしている。文章の持つ魅力がさらに倍増。温かみのある装丁もいい感じ。「女生徒」の小説は色んな出版社からリリースされているけど、個人的にはこの作品社からの佐内正史とのコラボレーション作品がお薦め。 |
![]() 『キぐるみ』 D [di:] |
前作を、宮崎駿が絶賛してたり、今作は庵野秀明、森博嗣、古屋兎丸、リリーフランキーなんかが推薦文を寄せてたんで、気になって購入した本。この作品は「コミック・ノベル」。漫画と小説の融合。小説と漫画の両方の手法を使って描かれた作品です。とは言っても、小説9、漫画1くらいの割合。小説部分は漫画のコマ割りの中に入っている。実験的なんだけど、決して読みにくくはなくて、すんなり入っていけます。 著者は、D [di:]。この人、実は凄く可愛くてモデルもやってます。僕が初めてDさんを知ったのは、蜷川実花の写真集。 この作品の内容は、その可愛い容姿からは想像できないほど、残酷なメルヘン物語。深い。 あらすじは・・・ 主人公・トシの住む町は、かわいい着ぐるみをかぶった人々が観光客を出迎えるテーマパークのような町。そこでは「かわいいということ」がすべての価値の基準。学歴や性格などは関係なく、ただ「かわいいかどうか」によって裁かれる。 「かわいくない」人は条例によって、かわいい着ぐるみの着用を強制される。トシも「着ぐるみ」を着させられている。家庭も貧しく、とことん不幸な境遇。トシは、いろいろ不満を感じつつも生活していたが、やがて美術部の花井やゲイの浦瀬と出会い、トシは町の外へ自分の夢をかなえに行く。そこで待つものは・・・。 とにかく、世界観が凄まじい。全く現実とかけ離れたファンタジーの世界のようで、実は現実に一番近い。 貧しい人、醜い人、ゲイ・・・。どんな人でも、それぞれ苦痛を抱いて生きている。 その苦悩の様をファンタジックかつ、リアルに描いた作品。 そして、この作品のエンディングが素晴らしい。読む人によって受ける印象が分かれるかもしれないけど、ただ絶望と思う人もいるかもしれないけど、このラストは救い、希望。 着ぐるみの「キ」は希望の希。 所詮、何が幸せかなんて本人にしかわからないものだ。 ちょっと暴力的、ゲイの性的な描写が生々しくて、人によっては駄目かもしれないけど(僕もちょっとそういう部分は苦手ぎみ)、本当に素晴らしい作品。 |